雑誌『ブラストライブ』編集長・榎本孝一郎さまが管楽器・バンドファンのみなさまへ向けた『JAZZ爺MEN』応援メッセージをお寄せくださいましたのでご紹介します。

【まだ見ぬ楽器族のために】 榎本孝一郎

 まだ見ぬ書き手のために、と称した、敬愛する丸山健二氏の名著になぞらえたタイトルをいま書いてみたが、あなかち嘘ではない、というかマジにこれ、そういう映画だと確信しています。楽器族、てのは楽器をこよなく愛する人のこと!と俺は勝手に決め込んでいるんですが、この映画はそんな楽器族の魂を確実に刺激する「族な映画」なんですよ。「楽器族映画なんてジャンルは知らないわ!」という映画ファンの方も多いかもしれませんが、●●な政治状況にあきれた方々からまたぞろ復帰待望論が出てきそうな小泉純一郎に似ている(というか、小泉が似ている)ダニー・ケイが主演した名画「五つの銅貨」を筆頭に、そこでも熱演した「俳優」ルイ・アームストロングの若き日の映像が楽しめる「ニューオリンズ」、《イン・ザ・ムード》《茶色の小瓶》《アメリカン・パトロール》《センチになって》《メモリーズ・オブ・ユー》などの名曲で有名なグレン・ミラーやトミー&ジミー・ドーシー兄弟、さらにはベニー・グッドマンなど歴史にその名を残すジャズ英雄たちの伝記映画…そして、忘れちゃならない「スウィングガールズ」「のだめカンタービレ」(あ!どっちも主演は…)などなどなど…意外と、枚挙にあんまり暇がないくらいぞろぞろ出てくる「楽器族映画」の系譜に連なる映画のなかの最新作であることは間違いありません。そしてこれも間違いなく、日本が世界に誇るべき、初めての完璧な「楽器族映画」なのです。

 その理由をちょっとだけコクります。台本の完璧さや演じている俳優さんたちの完璧さは言うまでもないので割愛(見たら誰でも納得するはず)。力説したいのは、この映画の細部へのこだわり。たとえば音楽。ジャズの映画…なわりには、冒頭から聞こえる(そして最後まで重要な役割を果たす)主題曲は、テーマとなっているジャズとは一見縁遠い響きながら、その「のどかさ」がこの映画の根底に流れる「愛」(わ!字数がないから簡単に言っちまったが、ちょっと恥ずかし)を見事に表現しているし、クライマックスで観客全員の心から涙という涙を搾りとる「あの曲」や、みんなが必死に練習する「あれやこれやの楽曲」など、とにかくこの映画に使用される楽曲がすべて、素晴らしいのだ(あまりに素晴らしいから、クライマックスのあの曲の楽譜を本誌HPからダウンロードできるようにしてしまいました!)。映像にぴったりあった音楽の選び方に、最初は気づかないだろうけれど、二回目からは要注意。三回目からは、最初の練習シーンで、今吹奏楽の現場で注目を浴びている「あの教則本」がちらりと見えたり、主人公グループのひとり「野津手先生」が手にする楽器が、かのルイ・アームストロング(サッチモ)の手にしていたのと同型器であったり、同じく重要な登場人物である「後藤宗助」の手にするのが、時価百万を超えるヴィンテージものであったり…また、誰もが「これは絶対耐えられない!」と叫ぶであろう特訓シーンで画面に写りこむ、世にも美しい本庄市の風景(下久保ダムや、飛騨高山顔負けの古い街並み)などなどなどを、決して見落とさないように!!

 あえて額面はナイショにしますがね、常識はずれの低予算&超短期決戦撮影…なんてことが信じられないくらい、画角いっぱいに製作スタッフの地元に対する愛、音楽に対する愛、そして物語に対する愛が、びしばしびしと感じられるのが痛快無比。ちょっとでも見落としたら損します。音楽映画、というと、なんとなく「薄幸の美少女がショパンかなんかを弾いて涙を誘う」ような気がしちゃうかもしれないけど、平成の「楽器族映画」は、たくましき肉食系のおやじたち(+広い世代の「お姉さん」たち)が、見る人の心と体から、涙と笑いを「誘う」どころかとことんまで「しぼりとる」かわりに、厳しい明日を生き抜く力をたっぷりと与えてくれる…そんな映画なんです。そして、まだ見ぬ新しき「楽器族」たちを、この世に生まれさせてくれる、そんな映画です。

(榎本孝一郎 管楽器愛好家のための季刊誌「楽器族。ブラストライブ」主宰)


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